日本禅宗史への扉

【墨蹟(墨跡)】

禅僧が墨で書したものを、墨蹟〈ぼくせき〉と称する。書法的な技巧を追求するものもあるが、書法にこだわらない破格の書法で、難読のものも多い。いずれにしても筆者の禅風や境涯、人格などが強烈に発露した姿であり、禅林では墨蹟が尊重された。千利休〈せんのりきゅう〉は、茶室の飾りとして墨蹟を第一とし、茶道の流行とともに、墨蹟は茶席の鑑賞物として不可欠なものとなった。一方で、次第に法語や偈頌〈げじゅ〉など難読な墨蹟を理解する者が減少し、代わって五字・七字といった短い禅語を、一行に書く一行書〈いちぎょうしょ〉が広まった。特に茶人と深い関係にあった大徳寺の高僧の墨蹟は、大徳寺物として多用された。なお、墨蹟には多用な種別があり、主に印可状〈いんかじょう〉・法語・偈頌・遺頌〈ゆいげ〉・引導語〈いんどうご〉・額字・詩・一行書・賛などに大別される。