著作(著作刊行物の紹介)

廣瀬良弘『禅宗地方展開史の研究』(吉川弘文館、1988年)

 中・近世における宗教と地域社会との関連という観点からの研究では、一向宗や法華宗に比べ、禅宗のそれは少ない。現在の寺院数では、真宗についで多いのが曹洞禅宗(1万4200)である。臨済禅宗とで2万1000か寺を超える。全国が真宗地帯であったわけでもなく、戦国から近世初期にかけて多数の禅寺が建立されており、その研究は重要である。(1)曹洞禅宗が15・16世紀に在地領主に受容され、浄土系宗派や真言宗などと競合しながら、主に東日本では(2)在地領主のみならず上層農民等の民衆にも受容され、(3)後進農村地帯や、やや山間部に展開したのは何故かを考究したのが本書である。

 

 まず、室町期に各地にも展開した五山派が戦国期には衰退し、林下の曹洞宗や臨済宗妙心寺・同法燈派などが隆盛になっていくことを越中を事例に考察し、ついで、曹洞宗の展開には壇越を持つものと、持たないものがあり、持つ展開では、(1)在地領主連合関係、(2)一族関係、(3)主従関係に沿って展開し、時代が降ると壇越は小規模化した。禅僧たちは地域の神に戒を授け、自らの弟子とするという神人化度の説話を生み、地域の神を取り込み、温泉場開発など地域での祈?・法要により、受容されていった。禅僧の語録の中で葬祭に関するものが、15世紀前半以降ほとんどを占めるようになり、しかも、武士のみならず、上層農民や、舞士・鍛冶師等に対する引導法語も少なくない。さらに、15世紀後半には、すでに、盛んに授戒会が行われ、これも在地武士のみならず、農民・諸職人から下人まで、一度に50人、60人に戒を授けていることを授戒会帳の検出により実証し、戦国期には寺請制度の基礎が成立しつつあったことを論証した。また、このような禅僧の問答・法要儀式などの活動を支えたのは、抄物・切紙の授受であり、引導とは異なり、室内でなされたことを明らかにした。