箱根駅伝 −2013、復路優勝、襷を明日に繋げ、駒沢大学−
2013年正月2日、駒沢大学駅伝チームに、二つの強い「カゼ」が吹き荒れた。一つの「カゼ」は暮れから静かに1年生選手に忍び寄ってきていた。近隣の方のご好意により、隔離の部屋を用意するなどして、対応した。しかし、元旦、ついに、キャプテンを襲った。選手たちの間に動揺が走ったに相違ない。直前に4区に湯地俊介選手が決まり、2日朝7時、往路の区間変更表を届け出た。
これまでの大八木弘明監督の采配は、「復路の駒澤大学」と評されるように、復路に重点が置かれた。しかし、ここ数年は、往路で後手後手の展開になってしまっていた。そのせいか、1区に油布郁人、花の2区にエース窪田忍、3区に成長株の中村匠吾、そして山登り5区には未経験だが、記録を残している村山謙太選手を据えた。
1区の由布選手はまずまずの走り、4位、トップ東洋との差26秒で、2区窪田選手に襷を渡した。ここで、2つ目の「カゼ」に阻まれることになった。もちろん、強風は各チームの前に平等に立ちはだかった。しかし、体重の軽い選手ほど不利である。また、数日来の1つ目の「カゼ」騒ぎ、一睡もできなかった。さらに、過剰になってしまった練習による体力の消耗などの悪条件が重なった。普段であれば難なく乗り越えられたが、強風はそれを許さなかった。ただ、窪田選手の名誉のために述べるが、このような言い訳は本人は一切言っていない。
さて、強風に煽られた窪田選手は、普段の力を発揮できずに、2位東洋の設楽啓太選手に1分ほど遅れを取った。順位も5位に下げた。しかし、3区中村君は区間3位の走りで、順位を2位まで引き上げた。ただ、1位の東洋との差は2分41秒に広がった。4区湯地選手は、急な交代劇のせいか、動揺を隠せず、また、序盤でのオーバーペースのためと、急な坂に勝てず、ブレーキを起こし、順位を10位に下げた。5区の村山君も力を発揮できずに、順位を1つ上げた9位にとどまり、トップ日体大との差は6分57秒であった。
しかし、沈む選手を前に、大八木監督は「明日は気持ちを入れ替えて、せめて5位狙いで行く」ことを告げた。レース後、恒例の箱根山の上ホテルで開催された同窓会神奈川県支部の新年会で私は、それでも「明日は3位2位、いや、優勝をも狙います」と、挨拶した。
復路は4年生が4人出走した。「昨日は何をやっているんだという思いが強かったが、下級生が何かを感じ取れる走りをしよう」と思ったという(上野選手談)。4年生のラストランはみごとだった。6区山下り千葉健太選手は2年生のときに出した区間新に4秒差まで迫る58分15秒の区間賞で、順大・帝京大・青学大を抜いて、順位を6位にまで上げた。彼は山下りを4度走り、3度区間賞であった。7区久我和弥選手も区間5位の走りで、法政大を抜き、順位を1つ上げた。8区は3年生の郡司貴大選手。
よく頑張ったが、順位を1つ下げた。9区は上野渉選手。一番気合が入っていた。区間賞の走りで、帝京大・早大を抜き去り、一気に3位に浮上。10区後藤田健介選手も区間賞で、順位を維持し、ゴール。復路優勝、総合3位。復路2位の日体大に1分の差をつけての優勝であった。総合では優勝の日体大に5分57秒の差をつけられるも、2位の東洋には、1分3秒差まで迫った。
今年も総合優勝には今一歩届かなかった。しかし、4年生のみごとなラストランは、下級生に対して、かならずや心打つものがあったに相違ない。3年生以下は、はやくも翌日の4日早朝6時、いつものようにグランドに立ち、箱根へ向けてスタートを切った。
曹洞宗の開祖である道元禅師が禅僧たちに示された最も根本的な教えである「修証一等」(坐禅修行と悟りは一体である)を大学の教育・研究の基礎としてあらためて表現し直したものが、駒澤大学の建学の理念「行学一如」です。全身全霊をかたむけて学問研究を行い、それを自らの血とし、肉とするのが「行」である、また、その「行」の中に学ぶものがあり、学問研究に繋げていくというものです。
陸上競技部の選手たちは、精進に精進を重ね、ただひた走りにひた走り、その「行」の中から自己の尊さ、人間の尊さ、さらには人生観を学び取っているに相違ない。ここに、「行学一如」の実践があり、教育の原点の一つがあると思います。
私が陸上競技部部長を拝命してから、はや7年の歳月が流れました。この間、全日本大学駅伝(伊勢路)では5度も優勝の栄に浴し、箱根でも、7位・優勝・13位・2位(立川の予選会から)・3位・2位・3位でした。熾烈な競争の中で、優勝の栄に浴することができましたことは、望外の喜びです。
これも駒澤大学の選手諸君、大八木監督をはじめとするスタッフの精進のおかげであり、教育後援会の皆さんをはじめ、同窓会・陸上競技部後援会・駒沢会・近隣の皆さん、駒澤大学関係の方々の物心両面にわたるご支援があったればこそです。有難うございました。
最後となりますが、我が駒澤大学陸上競技部は東日本の復興を祈念しつつ、箱根の頂点をめざして精進を重ねてまいりますことをお誓い申し上げ、御礼の言葉と致します。
駒澤大学陸上競技部 部長
文学部教授 廣瀬良弘